日本臨床睡眠医学会
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運転継続が危険な眠気を疑われた人に睡眠医学は何ができるか?

2011 年 9 月 21 日

 眠気と交通事故は切っても切れない関係です。ただし,この両者を診療場面あるいは実生活でどのように扱えばよいのかとなると,実に心もとない状況になります。2003年2月26日の山陽新幹線の運転士居眠り運転事件以来,ややもすれば単純な見立てだけで対応されてきたようにみえます。

 第2回ISMSJ学術集会が終わった昨年の10月初旬に,次回,つまり今回の学術大会の企画について立花直子先生と打ち合わせました。その際,眠気と交通事故について取り上げるという話になり,認知症高齢者の運転に関する池田学先生のお仕事をご紹介いただきました。さらにうれしいことに,池田先生の中公新書「認知症」もお送りくださいました。
 
 この本を読んで最も感激したのは,「認知症に関わる専門家は運転を止めざるをえなかった高齢者やご家族に,中止の過程,さらに中止の後にも,生活を支援する仕組みを作らねばならない」という強いメッセージでした。認知症と睡眠の病気とはもちろん別々です。しかし,これほどまでの意識をもって取り組んできた睡眠の専門家は果たしてどのくらいいるでしょう。

 

 今回のシンポジウムにおいて,池田先生からは認知症高齢者への診療のコツ,ご家族への支援,地域社会への働きかけなどをお示しいただきました。これらは睡眠にともなう問題に取り組みときのよいモデルになると実感しました。

 警察庁交通局運転免許課の大高圭司補佐からは,高齢の運転者に関する施策の変遷と認知機能検査(講習予備検査)について,詳しく講演していただきました。認知症と言っても,ご承知のように,症状やその後の進行などは個人差が多いものです。であっても,行政にはなんらかの有効な施策をとるよう,社会的に求められます。患者さんが重大な事件を起こせば,そのような要請はまして強くなります。

 認知機能検査は完全ではないでしょうけれども,客観的な検査の導入という点では画期的と言えます。ご講演を聞きながら,科学的根拠を保ち,しかも実社会で使える眠気検査があれば重宝すると思いました。

 総合討論では,そもそも眠りを軽視する日本社会の問題点から,患者さんの起こした交通事故に対する主治医の法的責任まで議論されました。睡眠の分野での課題はたくさんありますが,「認知症とちがって,うまくかかわれば,睡眠の問題は改善する余地があり,その意味で“睡眠は明るい”」と,池田先生は最後に話されました。このお言葉はまさに今回のシンポジウムの締めにふさわしく,私たちにとってもなによりの励ましになりました。

 池田先生,大高補佐,そして参加してくださった会員の皆さまには,本当に感謝いたします。ありがとうございました。

(ISMSJ役員(次期書記) 労働安全衛生総合研究所 高橋正也 記)
8月26日(金) プログラム
13:40~15:10
研究プログラム
シンポウジウム:運転継続が危険な眠気を疑われた人に睡眠医学は何ができるか?
【座長】 高橋正也
熊本大学医学部付属病院 神経精神科: 池田学
労働安全衛生総合研究所: 高橋正也
警察庁交通局運転免許課: 大高圭司