日本臨床睡眠医学会
~日本に境界なき睡眠医学を創る集い~

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第1回 Introduction

2009 年 5 月 15 日

           

テキサス州ヒューストン メソジスト病院 
               神経内科神経生理部門 河合 真

 みなさん初めまして。
このような機会をもらって、米国の睡眠医学の事情を紹介することになりました。私が本当に適任かどうかはわかりませんし、私が紹介できるのはあくまでも私の勤務しているところでの話ですので、全米に当てはまらないことも多いことを承知してください。

 さて、まず自分の紹介です。
私は1997年に京都大学を卒業して、日本と米国で神経内科レジデントをして、2005年から神経生理フェローをベイラー医科大学で行ったときに睡眠医学にはまりました。アメリカでトレーニングをうけましたので、米国のテキサス州の開業免許があり、神経内科専門医と睡眠専門医の資格があります。というわけで、私がやっているのは睡眠の研究ではなく、臨床です。
 しかし、ある事情があって現在「睡眠クリニック」そのものはやっていません。どちらかというともうひとつの専門である「てんかん」のクリニックがメインで、たまに睡眠の問題のある患者さんも混じってくるという状態です。なぜ、専門医資格まであるのにこういう状態か、ということはおいおい説明したいと思います。

 医療を語る上でどこで行うかということは非常に重要なことですから、ヒューストンという町の紹介をしましょう。
 テキサス州という米国南部に位置する巨大な州(日本より大きいです。フランスよりも大きいです。)の最大の都市で人口400万です。コンチネンタル航空のハブ空港があり、東京から直行便があります。これは本当に助かります。

 そしてこの町には総病床数1万超と言われているテキサスメディカルセンターがあります。
 医科大学2つ、病院は13箇所も集まっており、「なぜそんなに集めたのか?」という疑問がわきますが、患者さんにとっては必ず専門医がこのエリアに行けばいるので便利は便利です。アメリカの田舎はめちゃくちゃに田舎ですし、半端に分散するより集めてしまったほうが効率がいいことは確かです。
 その中のひとつが私の勤務するメソジスト病院です。病床数は1000程度ですのでかなり大きな病院です。この病院では契約により睡眠医療は私の属している神経内科の神経生理部門以外は行わないということになっています。
 睡眠医療をどこの部門がイニシアチブをとって行うかということはその病院によって随分異なります。どれがいいとか、悪いとかは、、、実はあると思いますが、仕方ない部分もあります。ただし、やはりその睡眠医療の方向付けとしては、「睡眠という現象そのものに興味をもつ」ということでなくてはなりません。
 睡眠ラボはベッド数10で、検査技師が8名勤務しています。いろいろな変遷があった結果数年前にこの形でスタートすることになり月間検査件数は100-120程度です。
 この睡眠ラボの特徴としては、筋萎縮性側策硬化症(ALS)の患者さん達の睡眠検査を数多く行っているということです。これはひとえにChairmanであるDr. Stanley H. AppelがALSの権威なので、非常に多くのALSの患者さんが集まってくるためです。ALSは不治の病として知られていますが、睡眠を陽圧呼吸器で改善することで予後が改善します(もちろん最後には人工呼吸器装着か、さもなくば亡くなってしまいますが、それまでの期間を延長することがわかっています。)
 月に一回ALSの専門外来があり、そこで睡眠チームの一員としてフォローアップをしたり、新規の睡眠検査をオーダーしたりすることも行っています。そこで、陽圧呼吸器で日中の眠気などの症状が改善していることを目の当たりにするにつれ、まだまだ睡眠医療にできることが多いと改めて実感します。もちろん、睡眠検査を病院内で行わなければならなかったり、普段は睡眠技師対患者が1対2の比率で検査するものを1対1にしなければならなかったり、ベッドがファンシーなものでなく病院ベッドでギャッジアップできるものにしたりと特別な配慮が必要であり、おいそれと手を出せるものではないことは確かです。ただし、なかなか「劇的改善!」ということを実感できない疾患の多い神経内科領域ではきわめて新鮮です。
 ここでも、眠気のあまりない患者さんは持続率が悪く、「眠気」が「改善」しないと陽圧呼吸器を使用してくれないことが実感されます。

 このような睡眠のスパイスをちりばめられた神経生理三昧の日々を送っています。ここは楽園では決してありませんが、日本での睡眠医療が進むべき道のヒントがいろいろとさりげなくあるような気がします。

 皆様の日常診療に少しでも役立てればと思いますが、そうでなければ、マイペースな神経内科医がアメリカでどうやって生き残ろうとしているか気軽に読んで楽しんでいただければと思います。

 次回以降、ここヒューストンでの事情をいろいろ伝えていければと思っています。

【外から見たメソジスト病院:1919年創立でかなり歴史は古く、Dr. Michael E. DeBakeyという血管外科医が頚動脈の内膜剥離術を始めて行ったことで有名、うしろの白っぽい建物の9階に私のオフィスがありそこでこの原稿を書いています】

【メソジスト病院 玄関ロビー:噴水がありゴージャスな雰囲気】

【ホテルか?と思いますが、睡眠検査用ベッドです。】

【コントロールルームは別に変わりないです。】

【睡眠外来も行う神経内科外来受付。贅沢にスペースをつかっている。】

【神経内科外来待合室。これまた贅沢】

【月一回のALS外来の風景。患者さん達の同意のもと撮影されました。このように待合室で患者さん達が待っている間に、問診をして睡眠の問題がないか聞いて回ります。】